ステロイドとは

正しく使えば怖くないステロイドの選び方・使い方のイメージ画像

ステロイドとは、体内の副腎(ふくじん)という臓器でつくられているホルモンの1つで、このホルモンがもつ作用を薬として応用したものがステロイド薬(副腎皮質ステロイド薬)です。外用薬(塗り薬)だけでなく内服薬や注射薬などもあり、さまざまな病気の治療に使用されています。

炎症を抑える働き

ステロイド薬は、塗った部分の炎症を抑える作用に優れており、皮膚炎・湿疹を中心に、皮膚疾患の治療に幅広く用いられています。
炎症反応が起こると、アラキドン酸という物質から、酵素を介してロイコトリエン、プロスタグランジンという生理活性物質が作られ、痛みや炎症などの症状を起こします。炎症を抑える成分のうち、非ステロイド性抗炎症成分はプロスタグランジンを作る過程を、ステロイドはその前のアラキドン酸の働きを抑えるので、ステロイドの方が非ステロイド性抗炎症成分よりも効果を得ることが期待できます。

ステロイドの誤解

ステロイド薬は開発されてから半世紀以上が経つ、歴史の長い薬ですが、一部の知識のみを切り取った情報が流れ、「皮膚が黒くなる」「顔が丸くなる」といった副作用が怖いというイメージを持っている方もいらっしゃるのではないかと思います。
ステロイドにより重大な副作用が出る場合のほとんどは「内服や点滴などを、長期間にわたって全身に投与した場合」です。副作用がない薬はありませんが、ステロイドでしか治せない湿疹・皮膚炎があります。正しく理解して使用することが大切です。

ステロイドの強さと選び方

ステロイド外用剤は強さによって5段階に分けられます。塗った部位によって吸収率が違うため、体のどの部位に炎症が起こっているかによって強さを使い分ける必要があります。吸収率は腕を1とした場合、頭皮は3.5、手のひらは0.8、足裏は0.1、頬は13と、主に皮膚の厚さによって全く異なります。吸収率の高い部位ほど長期に使用した場合には副作用が出やすくなるため注意が必要です。お子さんやご高齢の方が使用する場合には、ステロイド外用剤の強さを1ランク下げるか、炎症の程度によってはノンステロイドタイプの皮膚用薬での治療がおすすめです。乳幼児へのステロイド外用剤の使用は必ず医師や薬剤師に相談してから使用しましょう。

ステロイドの表

ステロイドの強さと主な商品名の表
  • ステロイド外用薬は、上の表のように、強いものから順にⅠ群~Ⅴ群の5段階に分類されています。
  • ※のついている薬は他の群に分類される場合があります。

ステロイドは怖い?副作用について

ステロイド外用剤について、「一度使うとやめられない」「顔が丸くなる」「皮膚が黒くなる」といった情報から副作用が怖いという方が多くいらっしゃいます。確かにステロイドにはいろいろな作用があり、それが強くはたらくと副作用として症状に現れます。しかし、これらの副作用は、あくまでも大量のステロイド剤を点滴や飲み薬などの方法で、長期間にわたり全身に投与した場合に起こるものです。皮膚に塗るタイプの“ステロイド外用薬”の目的は、局所的に作用させることですので、正しい使い方を守れば全身はもちろん、局所的にも副作用が現れることはほとんどなく、適切に使用すればメリットの方がはるかに大きい薬です。
しかしながら、急にステロイド剤をやめることでまた湿疹がでてきてしまう、ということはあります。ステロイドで一旦状態を落ち着けた後は、長期間使用できる塗り薬に置き換えていきますので、自身の判断で治療を中止するのではなく、担当医の指示に従ってください。どんな薬でも、副作用の心配がまったくないものはありませんので、用法・用量を守って正しく使用しましょう。

局所性副作用

  • 皮膚の萎縮
  • 毛細血管の拡張(特に顔面に起こりやすい)
  • 酒さ様皮膚炎、口囲皮膚炎、紅潮
  • 乾皮症(肌の乾燥)
  • 感染症の誘発、悪化

全身性副作用

  • 小児における成長障害
  • 成人におけるクッシング症候群(体内のホルモンバランスが崩れることで起こる、肥満や高血圧、うつ、骨粗鬆症などの症状)
  • 糖尿病の誘発、悪化

ステロイドの使い方・塗り方

ステロイド成分は強力な抗炎症作用をもっているため、通常では数日から1週間までに効果が得られます。市販のステロイド外用薬の使用は5~6日間使用して改善がみられない場合は使用を中止し、医療機関を受診することをおすすめします。また、ステロイド成分を配合した外用剤は、次のことに気をつけながら使いましょう。

  1. 薬は擦り込まず、優しく伸ばしましょう。
  2. 1FTUを基本に適量を塗りましょう。
  3. 5~6日間使用しても改善されない場合は使用を中止しましょう。
  4. 1日1~2回塗り、よくなってきたら回数を減らすか、ノンステロイドタイプの皮膚用薬に切り替えましょう。
  5. 化膿している患部には抗生物質配合の皮膚用薬を使用しましょう。

塗る量と面積

ステロイド外用薬の場合、薬の効果をしっかり得るために塗る分量の目安としてFTU(フィンガーチップユニット)と呼ばれる単位が使われ、1FTUで大人の手のひら2枚分を塗るのに適した分量の目安になります。塗る量が多いと感じるかもしれませんが、十分な量をしっかり塗ることで、期待する効果が得られやすくなります。

1FTUとは

チューブタイプの軟膏やクリームの場合
大人の人差し指の先から第一関節まで薬をのせた量(約0.5g)
ローションの場合
1円玉程度の量
1FTUとは
大人の手のひら約2枚分の面積に塗るのに適した分量の目安となる

リアクティブ療法とプロアクティブ療法

皮膚炎では炎症が改善して一見正常に見える皮膚も、組織学的には炎症細胞が残っていて再び炎症を起こしやすい状態にあるといわれています。プロアクティブ療法は、「皮膚炎がひどくなった時だけでなく、改善した後も継続的にステロイド外用剤を塗布することで皮膚炎の再発を予防し、最終的に保湿剤によるスキンケアのみできれいな肌を維持する治療」です。
それに対して、リアクティブ療法は、「皮膚炎がひどくなった時にだけステロイド外用剤を塗布し、皮膚炎が改善したら保湿剤だけで維持、再発があった場合のみ再びステロイド外用剤を塗布する治療」です。軽症の場合は、この治療方法で十分にコントロールが可能ですが、再発の多いアトピー性皮膚炎などの場合はリアクティブ療法ではうまくコントロールができず、プロアクティブ療法が推奨されています。

ステロイドQ&A

Q:ステロイドを塗ると皮膚が黒くなると聞きましたが本当ですか?

A:ステロイド外用の使用によって黒くなることはありません。「黒くなった」と誤解されているのはステロイド剤を使用したためではなく、皮膚が治癒していく過程での一時的な変化です。特に、長期間治療をせずに放置していたことによる炎症の悪化や治療を途中でやめてしまった際に皮膚の状態が良くない場合に黒くなると考えられています。

Q:ステロイドを長く使っていると体内に蓄積するというのは本当ですか?

A:ステロイドの成分が体内に蓄積されることはありません。私たちの体は副腎でステロイドを作っています。そのために、外から余分に与えると自分の体が作るのをさぼり始め、長い間ステロイドを使用すると副腎が萎縮して自分の体はステロイドを作らなくなります。そこで急にステロイドの使用を止めると、体中のステロイドが足りなくなり不調が起きます。ステロイド外用薬(塗り薬)は内服薬(飲み薬)と違って、このような副作用がでることはほとんどありませんが、自己判断で急にやめるのではなく医師の指示に従うようにしてください。

Q:ステロイド外用薬を塗ればアトピー性皮膚炎は治るのでしょうか?

A:アトピー性皮膚炎は、多くの原因が複合して発症する病気です。そのため、アトピー性皮膚炎を悪化させる原因をそのままに、ステロイド外用薬だけを塗っても治すことはできません。一時的にはきれいになっても止めればまた再発してしまいます。アトピー性皮膚炎の治療には、悪化させる環境因子やライフスタイルを変えていくことも大切です。

Q:妊娠中や授乳中でも使って大丈夫ですか?

A:医師の診断のもとに使用すれば安全です。ステロイド外用剤の使用により奇形児を出産したとの報告はありません。必要な強さの薬剤を必要な量だけ使うことが重要となります。授乳中の場合も同様で、大事なことは、「ステロイドが怖いからと塗る量を少なくしないこと」「医師の指示通り使うこと」です。

Q:ステロイド外用剤を中止すると「リバウンド」が起きますか?

A:使用方法が適切でない場合に症状が悪くなることもありますが、それを「リバウンド」とはいいません。良くなったからという理由でステロイド外用剤を中止すると悪化し、このことを「リバウンド」と言われていますが、これはリバウンドではなく治療しないことによる単なる悪化です。良くなっていないのに急に治療をやめると、悪化するのはどの病気でも同じで、良くなったと自己判断で治療を中止することなく、医師の指示に従うようにしましょう。